走っているときに好きな曲が流れてきて、気づいたら足が音に合っていた、という経験はありませんか。この記事では、その「足のリズム」と「曲のテンポ」をわざと合わせて練習するやり方を、できるだけ具体的に書いていきます。

ケイデンスは「1分に何歩か」

ランニングでいうピッチやケイデンスは、1分間に地面を踏む回数のことです。右足と左足を合わせて数えるので、単位は「歩/分」(spm と書くこともあります)です。

ピッチは人によってかなり幅があります。「180 がよい」という数字をよく見かけますが、身長や脚の長さ、走る速さで自然なピッチは変わるので、全員が 180 を目指す必要があるとは言いきれません。大事なのは、ほかの人と比べることより、自分の今のピッチを知っておくことです。

曲の BPM とどう合わせるか

曲のテンポは BPM(1分あたりの拍の数)で表します。ケイデンスも「1分あたりの歩数」なので、数字をそのまま合わせられます。170 歩/分で走りたいなら、170 BPM の曲で 1 拍に 1 歩を踏めばぴったりです。

ただ、170 BPM の曲はかなり速く感じるものが多く、ふだん聴く曲には、もっとゆったりしたテンポのものもたくさんあります。そこで便利なのが「半分のテンポ」の考え方です。85 BPM のゆったりした曲でも、1 拍に 2 歩踏めば 170 歩/分になります。逆に、テンポがちょうど倍に聞こえる曲を半分で取ってもかまいません。足に合う取り方が見つかれば、曲の雰囲気はあまり関係なくなります。

ピッチを少し上げると、何が変わると言われているか

ピッチを上げると歩幅が少し短くなり、一歩ごとの衝撃のかかり方が変わります。このあたりは研究がいくつかあります。

アメリカの研究グループが、45 人の市民ランナーにトレッドミルで同じ速さのまま、ふだんのピッチ、±5%、±10% で走ってもらった実験があります。ピッチを 5% と 10% 上げたときには膝で吸収するエネルギーが小さくなり、10% 上げたときには股関節でも小さくなりました。反対にピッチを 10% 下げると、どの関節でも吸収するエネルギーが大きくなっていました(Heiderscheit ほか, 2011)。

同じグループの別の研究では、健康な大人 30 人の走りを計測してコンピューターの筋骨格モデルで計算したところ、ピッチをふだんの 110% にすると、膝のお皿の裏(膝蓋大腿関節)にかかる力の最大値が 14% 下がったと報告されています(Lenhart ほか, 2014)。

10 本の研究をまとめた系統的レビューでも、ピッチを上げると体の上下動や地面から受ける力が小さくなる方向でおおむね一致していました。一方で、参加者が少ない研究が多いこと、男性ばかりの研究が多いことも書かれています(Schubert ほか, 2014)。

ここで気をつけたいのは、これらは主に「その場でピッチを変えたら、体にかかる力がどう変わったか」を測った研究だということです。ピッチを上げればけがをしなくなる、とまで確かめられたわけではありません。「膝や股関節への負担を減らす方法のひとつとして注目されている」くらいに受け取っておくのがよいと思います。

音楽はピッチを動かせるのか

では、曲のテンポを変えると足も勝手についてくるのでしょうか。ベルギーの研究で、16 人の市民ランナーに、まず音楽なしで走ってもらってピッチを測り、そのピッチに合わせた曲を流し、さらに気づかない程度(1〜3%)にテンポを上げ下げする実験をしました。その結果、テンポの変化に合わせてピッチも動いたと報告されています。ただし、テンポを大きく変えるほどついていけるわけではなく、効き目にはある程度の上限がありそうだとも書かれています(Van Dyck ほか, 2015)。

つまり、曲で足を引っぱるなら、一度に大きく変えるより、少しずつのほうが合わせやすいということです。

自分のピッチを測ってみる

時計やスマホのアプリで測れますが、道具がなくても数えられます。

  1. いつものジョグの速さで 5 分ほど走り、体を温めます
  2. 平らな道で、30 秒のあいだ右足が着地した回数を数えます
  3. その数を 4 倍すると、1 分あたりのピッチになります(右足だけで 30 秒なので、両足で 1 分にするには 4 倍)

1 回だと数えまちがいが出やすいので、2〜3 回測って平均すると安心です。ゆっくりのジョグとペース走ではピッチが変わるので、ふだん一番よく走る速さで測っておくと練習の基準にしやすいです。

曲のテンポで練習するやり方

測ったピッチを出発点にします。たとえば 160 歩/分だった人なら、こんな順番で進めます。

  1. まずは 160 BPM(または 80 BPM)の曲で走り、音に足を合わせる感覚に慣れます。最初の 1〜2 回は「合わせるだけ」で十分です
  2. 慣れたら 5% 上の 168 BPM 前後に上げます。速さは変えず、歩幅を少し小さくして回数を増やすイメージです
  3. 5% 上で無理なく走れる日が続いたら、そこを新しい基準にします。さらに上げるかどうかは、体の感じを見ながら決めます

走る時間のずっと全部を合わせる必要はありません。ジョグの最後の 10 分だけ、坂道の上りだけ、というように場面をしぼると集中しやすくなります。足音を聞いて「タッ、タッ」が拍と重なっているかを確かめると、ずれているのに気づきやすいです。

注意してほしいこと

ピッチは急に大きく変えないでください。いつもと違う動きは、ふだん使っていない筋肉や腱に負担がかかることがあります。上で紹介した研究でも、変えた幅は 5〜10% ほどです。

走ったあとや翌日に、膝やすね、足首などに痛みが出たら、いったん練習をやめて、整形外科やスポーツに詳しい医療の専門家に相談してください。もともと痛みを抱えている人がピッチを変えたい場合も、自己流で始める前に相談するほうが安心です。

GrooveRun でテンポを合わせる

梅工房の GrooveRun は、走るピッチに合わせて曲のテンポだけを変え、音程はそのままで再生するランニングアプリです。目標のケイデンスからずれると知らせてくれるビートガイドもあるので、ここで書いた「少しずつ上げる」練習に使ってみてください。

参考文献