梅工房は、梅原孝仁がひとりで運営している個人開発のブランドです。ひとりといっても、作業のかなりの部分は AI と一緒に進めています。使っているのは Anthropic の Claude Code という、コードを読んだり書いたりできる AI の道具です。
これまでに作ったのは 5 本です。iPhone 向けには、走るピッチに曲のテンポを合わせる GrooveRun、地球で走った軌跡を火星に置いて陣取りをする MarsRun、ZIP などを解凍せずに読める漫画ビューアの八百万ビューワ。ブラウザ向けには、英語の説明を聞いて単語を早押しする勉強ダンジョンズと、タイピングで暗記する STUDY TYPE があります。この 2 本は iPhone 版を準備しているところです。
この記事では、AI と一緒に作るとはどういうことか、どこでつまずきやすいかを、これから個人開発を始める人に向けて書いてみます。細かい出来事の記録というより、作りながら考えたことの整理です。
AI に任せられること
AI と一緒に作ってみて一番大きいと感じるのは、「書く量」の壁がほとんどなくなることです。画面を一枚増やす、設定の項目を足す、データの保存のしかたを変える、といった作業は、やりたいことを言葉で伝えれば、AI がコードを書いて動くところまで持っていってくれます。
ひとりで iPhone アプリとブラウザのアプリを両方作るには、本来なら言語も道具もちがう知識がたくさん要ります。AI はそのどちらにも付き合ってくれるので、苦手な分野があっても止まりにくくなります。サポートページや説明文の下書き、エラーの原因探しのような地味な作業も、頼れる場面が多いです。
自分で決めなければいけないこと
逆に、AI に任せきりにできないのは「何を作るか」と「何を作らないか」です。
AI はたいてい、頼めば頼んだだけ機能を足してくれます。でも、機能が増えるほどアプリはわかりにくくなり、こわれる場所も増えます。たとえば漫画ビューアなら「解凍せずに開く」「めくり方を自分で決められる」という軸を先に決めて、それ以外はなるべく足さないようにする、といった判断は人間の仕事です。
もうひとつ、使う人のデータをどう扱うかも、最初に自分で決めておくべきことです。梅工房のアプリでは、八百万ビューワや勉強ダンジョンズのように、読書の進み具合や学習の記録を端末の中だけに保存しているものがあります。MarsRun では、自宅の位置を知られないように、ほかの人に見えるのは火星の陣地だけにしています。こうした方針は、AI に聞けば選択肢は出してくれますが、どれを選ぶかはアプリの性格そのものなので、作る人が責任を持って決める必要があると考えています。
つまずきやすい所
ストアの審査
App Store に出すアプリは、Apple の審査を通る必要があります。審査では、アプリの中身だけでなく、説明文やスクリーンショット、プライバシーの扱いの書き方、アカウントの削除のしかたなども見られます。動くものができても、そこから公開までにもう一山ある、と考えておくと気が楽です。指摘を受けたら、何がガイドラインのどこに当たるのかを読み、AI にも一緒に整理してもらうと、直すべき所がはっきりしやすいです。
画像や音楽の権利
アプリに使う画像や音楽は、使ってよいものかを必ず確かめる必要があります。ネットで見つけた画像を「ちょっとだけ」使うのは、個人開発でもやってはいけません。素材は自分で作るか、利用の条件がはっきりしたものを使います。GrooveRun に入っている曲は、走るためにテンポを整えて用意した AI 生成の曲で、アプリの中でもそう表示しています。何を使っているかを正直に書いておくと、使う人も安心できます。
言いすぎないこと
アプリの紹介文を書くとき、つい「これで英語がペラペラに」「けがをしなくなる」のように言いたくなります。でも、確かめていないことは書けません。梅工房では、勉強法の研究を紹介するときも、それは勉強法についての研究であって、アプリそのものの効果を確かめたものではない、と分けて書くようにしています。健康に関わる話は「研究では〜と報告されています」と書き、痛みがあれば専門家に相談してほしいと添えます。AI に文章を頼むと、こうした誇張がまぎれこむことがあるので、公開の前に自分の目で読み直すのは欠かせません。
取り込めないものは、取り込めないと書く
技術的にできないことを、できるように見せないことも大事です。たとえば GrooveRun では、Apple Music の配信で聴いている曲は保護がかかっていて取り込めません。こういう仕様は、サポートページに理由と一緒に書いておくと、問い合わせも減り、使う人の不満も小さくなります。
これから個人開発をする人へのヒント
- 最初の 1 本は、自分が毎日使いたいものにする。使う人の気持ちが一番わかるのは自分です
- AI に頼む前に、「このアプリは何をするものか」を一文で書けるようにしておく。その一文が、機能を足すか迷ったときの物差しになります
- 作ったコードは、AI が書いたものでも自分で動かして確かめる。とくにお金やデータの削除に関わる所は念入りに
- サポートの窓口とプライバシーポリシーは、公開の前に用意しておく
- 説明文は、できることだけを、できる範囲で書く
AI のおかげで、ひとりでも作れるものの幅は大きく広がりました。それでも、何を大切にするアプリなのかを決めるのは、作る人の役目のままです。梅工房はこれからも、AI を相棒にしながら、ひとつずつ丁寧にアプリを育てていきます。